第37話「秘密の花園」
この前物件を見に行った帰りに、子供の頃よくハゼ釣りをしていた場所が近かったので、懐かしさも手伝ってちょっと寄り道してみました。そのポイントは羽田空港に行くモノレールの大井競馬場駅の真下の橋桁のところなのですが、それほど釣りに熱心じゃなかった子供達だったのに、なぜか周りの人たちよりよく釣れたので、自宅からはさほど近くなかったのに、結構通った良い記憶があります。
その記憶が20年以上前ということにまずは驚きをかくせなかったのですが、当時は2、3メートぐらいの簡易な竿に、シンプルな仕掛けで、その橋桁の上に座った快適な状態でよくハゼが釣れました。夕方になると橋桁についている何かを食べにくるのか、引きの強いセイゴ(スズキの幼魚)も釣れました。
仕事をさぼって、20何年かぶりにワクワクして行ったその場所は、駅が新しくなっていて、その下の橋桁の部分も埋め立てられ、周りも人が全く入れないように高い柵ができていて、当時の面影はほとんどありませんでした。同窓会で好きだった女の子を見たようなショックを受け、「行かなければよかったなー」などと落ち込みながら会社に帰りました。
「ちょっと待って、Play Back Play Back♪」(古いかな 笑)ていう感じで自分自身の仕事を振り返ってみると、「この場所は・・・の店にしたら最高です!」などと、現にご商売をやられていたり、お住まいになっている場所を半ば強引に?変えたことも多々ありました。もちろんご納得をいただいて、お仕事をさせていただいたつもりですが、長年住んだ愛着のある家を売る、精魂込めてやってきたご商売を辞める方の心の痛みを、そのときの私は1ミリも分かっていなかったような気がします。
「たかが、ハゼ釣り場が変わったぐらいで、変な郷愁にひたっている場合じゃないだろ。なに、弱ってんだ。ま、多少なりとも、人の心の痛みに気付いたただけでも良かったんじゃないか」などと、強引にポジティブシンキングに持っていく・・・こんな私にとってやはり不動産屋は天職なのでしょうか?