第41話「お寿司屋と相棒と私 その2」
やめる、やめると聞いてはいたものの、自分達の都合で勝手に「狼少年」扱いにしていたので、実質、1週間後に閉店というのは非常にショックでした。その発言の後も、オヤジはいつもどおりの表情、口調でもてなしてくれたのですが、それが返って辛く、いつもどおりにしようと、努力はしたのですが、未熟な私は涙を止めることができませんでした。
勝手なもので、数ヶ月前にはオヤジの店を出た後、
「今日は魚がいまいちだったな」とか「××店の方がパフォーマンスいいかな?」なんてことを平気で言っていた、残酷な客としての自分がいました。若くて、技があって、勢いがあって、仕事(店)がうまくいっている人でも、いつか老いてやめるときがくるのに。
お得意の思い込みの強さで、そのときのいつもどおりのオヤジの姿は「一生懸命仕事しろよー」「後悔するなよー」と訴えかけているように私には感じられました。ふと気づくと、他のお客さんにも分かるぐらい落ち込んで、一人で店の雰囲気をぶち壊していたようだったので、オヤジには「もう一回顔出します」といって、相棒を置いてその日はそそくさと帰りました。
大晦日、オヤジのところで飲むと、また泣くと思ったので、開店前に「お疲れ様でしたー」とそっけない一言と花を置いて、また、そそくさと逃げ帰りました。そんなこんなでちょっと感傷的なお正月をすごし、まだ怠惰な正月モードが消えない年明け営業3日目、オヤジに感化された訳ではなく、単なる偶然なんでしょうが、今度は9年間いっしょに仕事をしてきた相棒に「独立したい・・・」と突然言われてしまいました。
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