第45話「アドレナリン(前編)」
七年前の創業時、懇意にさせていただいている、内装デザイナーのKさんから、自分の友達がお店を開くから探してくれとのことで、Mさんをご紹介いただきました。Mさんは神戸に本社がある食器屋さんの若社長(当時は 笑)でした。
紹介を受けてから程なく、当時はまだそれほど人気がなかった、駒沢通り沿い(恵比寿駅と鎗ヶ先の間に)に間口のある、手ごろな坪数の物件が見つかりました。Kさんが勧めてくれたこともあって、その物件で話はトントン拍子に進んでいきました。手付金も納めて、弊社にとってはうれしい初めての契約になったのですが、やはり落とし穴が待ち構えていました。
その物件は新築だったのですが、割腹のいい(悪く言えばリップサービスの過ぎる)ビルのオーナーはMさんの前で、1Fの店舗のファサードは「好きにデザインしていい」との発言をされてしまったのです。ところが、後日Kさんのデザイン案に対して、「ビルが安っぽく見えるから大理石を使用してくれ」との返答が返ってきてしまいました。
オーナーに「それでは話が違います」と反論してみたものの、「構造上も大理石のほうが優れている」と返答されてしまい、この案件をどうしてもまとめたいモードの弱腰の私は途方にくれ、とりあえずその意向をMさんに伝えることにしました。すると、今まで柔和だったMさんの顔が変わり、オーナーもアナタも信用できないという険悪な状況に陥ってしまいました。
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