第46話「アドレナリン(後編)」
初契約をキャンセルされそうな険悪な状況を打破すべく、29才の若僧だった私はビルオーナーに掛け合い、なんとかファサードの大理石の色について選択権を取り付けることができました。Mさんにそのことをすぐ伝えたいのですが、電話だと行き違えが生じると思い、本能のおもむくまま、ノーアポで新幹線に飛び乗り神戸に向かいました。
当時の神戸はまだ震災の傷跡がまざまざと残っている状態で、映像で見てはいたものの、実際に三宮駅に降り立ったときの驚きは今でも強烈に少ない脳ミソに焼きついています。
さて、右も左も分からない三宮駅から、なんとかMさんの会社にたどり着くと、やはり外出中とのことで、荒れ放題の三宮駅の周辺を歩き回って時間をつぶしました。数時間後やっとMさんに会えたのですが、私がノーアポで神戸に来た話には全く触れず、淡々と仕事の話をして分かれました。でもそのときのMさんの顔には「なんでアンタ今ここにいるの・・・変な奴だな・・・」と書いてあったと思います。
きっとそのときの私には、会社設立1発目の仕事をつぶしてなるものか!そんな状況から、かなりのアドレナリンが出ていたと思います。疑心暗鬼だった?Mさんにとって少し条件は改善したものの、私とビルオーナーに対しての不満はかなりあったと思います。しかし、アドレナリン効果か?その後は物件の引渡しまですんなり進行していったように記憶しています。
7年後の今、Mさんも私もかなりオヤジが入ってきてしまいましたが、現在も仕事面でいいお付き合いをさせていただいています。正直いいますと、今では仕事関係と言うよりも、負けず嫌いのオヤジ2人がプライベートでお互いアドレナリンを出して競い合っている「濃い」関係と言う表現が的確かもしれません。暑い時により暑くなるような話で失礼しました。まだまだ強烈なヒートアイランド状態が続くと思いますが、皆様お体ご自愛くださいませ。